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村上シンジ 連続ブログ小説 「零」最終話

Posted joe :2012.02.06

観客席には審査員とスタッフが合わせて10名ほど、真剣な面持ちで座っている。


ビデオカメラも2台セットされていた。


「いよいよ」と言う雰囲気が漂っていて、自分の足が地面についている感じがしない。


大急ぎで自分達の機材をセットする。


「こいつら裸で準備してるよー。後で脱げばいいのにさー。」とか思われてたらやだな。なんて考えてたら恥ずかしさで逆に顔がニヤケてしまった。

J音に目を向けると僕と同じ様な顔をしている。


そして目が合い、お互い照れ臭そうに笑った。


その少し後でS子ともこのやりとりが全く同じクオリティで行われた。


こんな感じが「いよいよ」と言う空気をより濃厚にしていく。


J音が愛してやまないブルースをワンコーラス程演奏し、三人の音量を整えたら準備は完了だ。


J音が審査員に挨拶をする。


J音「こんばんは!ファジーコントロールです!短い間ですが、最後までよろしくお願いします!フォーゥ!!イェー!!」


オーディション前の挨拶なのに、彼はアドレナリンマックスで語尾がROCKしてしまった。


さすがだ。


この行動が一般的に正しかったかどうかは分からない。


「真面目にやれ!」と思う人もいるかも知れない。


だけど、僕らにとってはそこが魅力的なのだ。


どうやってもROCKになってしまう彼の不器用さがたまらないのだ。


最高のロケットスタートが出来た。


そしてS子のカウントからイントロが始まった。


三人で初めて合わせる「Born To Be Wild」だ。


何かがいつもとは違う。


音が、パワーが、思いが、この目に見えている感じがした。


トライアングルの真ん中に、とてつもなく強いエネルギーの塊が、色の無い太陽の様に燃えていた。


これほどエキサイティングな瞬間は生まれて初めてかもしれない。


心が震え、何故か涙が出そうになった。


今まで自分が人生でやってきた事は全てこの時の為だったんじゃ無いか。とまで思えた。


時間にしたら4分弱。


しかしそこには永遠があった。


そう思えるほどの濃密なセッションだった。


観客席で見ているCちゃんの表現もいつもとは違う。


最後の500円でかかったスーパーリーチを見つめるような、はたまた大穴の馬券を握りしめレースの行方を見つめる様な、そんな「勝負師」の顔をしていた。


彼女もファジコンに人生を賭けて、今まで一緒にやってきた。


今が「勝負」なのだ。



そして「永遠の10分ライブ」が終了した。


手応えは充分にあった。


オーディションに受かる、受からないではなく、「ライブ」としての手応え。


元々僕らの事が嫌いではない限り、これを観て心が震えない人は居ないだろうと思えた。


これが「ライブ」だ。


色んな物事や状況が重なって起きた化学反応で、奇跡的に見えた景色。


それが今回の何よりも大きな収穫だった。


また新しい世界が僕らの目の前に広がった。


人生は螺旋階段のみたいに何度も何度も同じ様な事で悩み、気づきながら、少しずつ上に登って行くものだと思う。


止まらない限り、必ず登って行ける。


目標はあった方がいいが、ゴールは無くていい。


止まったら終わってしまうから。



そしてスタートは何回あっても良いと思う。



「零」からの。




オーディション終了後、3人はいつもより少し強めの握手をした。


このオーディションで何を得たかは3人様々だと思うが、それぞれが何かを得たというのは分かった。



そして2012年。


僕らが出演しているコカコーラ・ゼロのCMは、曲も担当させて貰える事になり、今まさに放映されている。



この続きは是非貴方の目で見て行って欲しい。



伝説のライブを。



完。